参加を決めた3つの理由
私は、普段日本で研修医として働いている駆け出しの医師です。
岡山県の地方の病院で働いているため、英語を使って診療しなくてはならない場面や、多国籍の患者さんを診ることは稀です。
そんな私が、この度このプログラムに参加した理由は大きく分けて3つあります。
1つ目は、英語力向上のきっかけになると思ったからです。
私は将来、海外の医療現場で数年間勤務し、日本だけでない、視野の広い医療活動に取り組んでいきたいと考えています。
今回のプログラムを通じて、その空気感を肌で感じることが出来れば、英語学習の大きなモチベーションになると考えました。
2つ目は、今回のプログラムに参加することにより、日常の診療に対する自らの取り組みと、医学の研鑽により磨きをかけたいと思ったからです。
現地で他国の医療従事者とコミュニケーションを取るにあたって、自分が普段どのように思考し、どのような根拠を持って診療を行っているのか説明する機会は幾度となく訪れます。
現地での手技や治療内容に興味を抱き、質問しようにも生産性のある会話をするには、「日本の病院では普段はこうやっているのですが…」と、説明することができる知識は不可欠です。
今回のプログラムが医学勉強のファンダメンタルな部分を固める良いきっかけになると考えました。
3つ目は、私自身が以前の自分と比較して、どのように変化しているのか俯瞰したいと考えたからです。
私は医学生の時に、プロジェクトアブロードや医療とは関係なく、ボランティア活動の一環でフィリピンを訪れたことがあります。
その際は多くのストリートチルドレンを含む子供達の自宅にお邪魔させて頂いたり、炊き出しのような活動を行ったりしました。
自分と比較して、経済的にも教育面でも環境面でも圧倒的に恵まれていない彼らですが、常に明るく、懸命に毎日を生き、必死に勉強している姿から、私はさまざまなことを学ぶことができました。
今回、医師として医療の側面から同じ国の現状を見ることで、あの時の自分と違った気づきや発見が得られるかもしれないと期待し、ぜひともフィリピンでのプログラムに参加したいと思いました。
幅広い分野での医療インターン活動
今プログラムの活動内容は、主に現地でどのような医療が展開されているのか、病院内のさまざまな角度から見て、聞いて、体験することで知ることでした。
病院内では、結核、COVID-19感染者の隔離病棟など、感染管理上、入室に危険が伴う箇所を除く、ほぼ全ての病棟、施設を見学することができました。
具体的には以下などです:
- ICU
- ER
- 手術待機患者病棟
- 産科病棟(女性専用病棟)
- 外科手術室兼分娩室
- 軽症処置室
- NICU
- セミナー(病院の屋上で開演!)
- 社会福祉相談室
- 外来(一般外来、動物噛症、歯科、婦人科)
- 薬剤部
- 一般病棟
- 栄養部兼調理室
- 資料管理室
- 臨床検査室
どの部署にいらっしゃる方も、仕事中で多忙を極める中にも関わらず、私たちに非常に暖かく、丁寧に接してくれ、詳しい解説をして下さったり、質疑応答に応じてくれたりしました。
また、プログラムコーディネーターが非常に顔が広い方で、多くの方とより話しやすくなるかきっかけを作ってくれ、安心して活動することができました。
また、彼女自身が医療従事者であることから、医療的な観点から的確な情報を提供してくれたり、英語でのコミュニケーションが困難な年配の方の現地の言葉を英語に通訳してくださったりと非常に心強かったです。
温かい家族に囲まれたフィリピン生活
滞在中は、活動先の病院からTricycleという、電動の三輪車で15分くらいのホストファミリーにお世話になりました。
ご夫婦と、3人のお子さん、お手伝いさんがお1人の計5人がいらっしゃり、みなさんが暖かく迎えて下さりました。
家族間では現地のビサヤ語を使って会話されますが、私たち宿泊者と話す時は英語で分かりやすく聞いてきてくれました。
私自身、英語に絶対的な自信があるわけではなく、何度となくニュアンスを取り違えたり、上手く伝えることができなかったりしたのですが、辛抱強く、熱心に会話してくれるので、会話に対しての恐怖心や不安はまったく感じませんでした。
また、家族全員、特に3人の子供さんはみんな日本の文化、風俗に興味深々で、出身地や、流行っている音楽、最近ハマっていることなど、話題は尽きることはありませんでした。
宿泊者には個室があてがわれていて、エアコンこそありませんが、扇風機が置いてあり、虫や蚊もほとんど気になりませんでした。
食事に関しては、1週間を通じてどれも非常においしく、量も十分でした。
みなさん非常に暖かく接してくれ、まるで家族のように歓迎してくれました。
短い滞在期間でしたが、去るのが本当に惜しかったです。
自分の課題を認識できた
今回のプログラムで、私が最も収穫があったと思うのは、自分自身がまだまだ未熟者だと実感することができたことです。
医学、語学、対人関係の面でそれを実感しました。
医学的な側面では、普段の臨床で機器や情報、環境面で豊かであるために、フィジカルアセスメントをしっかり取れていないこと、最適解だけでない次善の策を講じることができていないと感じました。
また、日本ではあまり遭遇することがない動物噛症や、破傷風、糖尿病合併症のが極度に悪化した症例など、知識と経験の不足にも直面しました。
語学面では、自分が表現したいと思ったこと、特に医学単語が瞬時に的確に言い表すことができないことにもどかしさを感じました。
日常会話はある程度できても、共通言語としてのメディカルタームが入っていないと仕事に差し障ることを痛感させられました。
対人関係においては、現地の方々が、部外者の私たちに非常に暖かく接してくれたことがとても印象的でした。
日本では、医療従事者間での意思疎通は、同職種間では取れていても、例えば医師と看護師、検査技師といった関係になるとやや連携が疎になることもしばしばあります。
更に仕事効率化の為、ある程度致し方ないとはいえ、施設ごとにルーチンや、しきたりが決まっていて、新しい人員やシステムに対して排他的になっているケースも多々あります。
フィリピンでは、少ない人員と、乏しい医療資源を最大限活用するため、全医療スタッフお互いに理解を深め、連帯を密にして理想が実現できなくとも可能な限り全力を尽くして治療に取り組んでいらっしゃることが心に残りました。
今の自分が医療資源に恵まれた環境にいて、普段は気が回っていなかった本質的に大切な医療者としての姿勢に気付かされました。
今とこれからの具体的な進路
まず、今回のプログラムで得られた、医学・語学・対人関係面での未熟さという気づきを得られたため、これらを積極的に伸ばしていきたいと思います。
医学面に関しては、特に自分は感染症に対しての抗菌薬選択に自信がないのですが、これを機により深く勉強したいと思います。
この文章を書いている1ヶ月後、抗菌薬選択の論理的思考について発表する機会があるため、このプログラムで得た知見を含め、発表し、理解を深めたいと思います。
語学面に関しては、これまで自分は医学単語というよりは、英語力全般を向上させる方針で勉強してきたことが多く、より専門的な単語、表現の必要性を感じました。
今後の予定として、勤務先の大学病院の留学制度を利用して、今年度中に海外留学が再び叶いそうですので、それに向けて今から少しづつ努力を積み重ねていきたいと思います。
また、より具体的な目標設定として、資格試験の受験を自分に課したいと思っています。
対人面については、これまでは現場でわからないことは、自分で調べるか、上級医に聞く機会が多かったのですが、今後は他の医療従事者の専門とも言える知識を持っていらっしゃる方からも積極的に教えを乞い、疑問を共有しようと思います。
例えば創処置については看護師の方、呼吸器設定については臨床工学技士の方、栄養コントロール面については栄養士の方など、お互いに話し合い、治療に取り組んでいくことで、医療全体の質が向上し得ると考えます。
これらのことを意識して今後の臨床に取り組んでいきたいと思います。
この体験談は、主観に基づいて綴られています。
その時の現地の需要や活動の進捗状況、参加時期、参加期間、天候などによって得られる経験が異なりますので、あらかじめご了承ください。
ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。