転職前の今しかできない経験を
2017年9月末で、11年半勤めたメガバンクを退職し、転職先もまだ決まっていなかった私は、せっかく数ヶ月自由になる時間があるのだから、こういう時でしかできないことをしようと思いました。
そして次の瞬間には、「途上国でボランティアがしたい」と思っていました。
学生時代にインドで3ヶ月、ケアのボランティアに参加した時の刺激を思い出していました。
そしてせっかくなら、自分の社会人経験を活かせるものが良いと考えました。
インターネット上で「海外 ボランティア 社会人」と検索すると、いくつかの団体のウェブサイトが見つかりましたが、期間のフレキシビリティの観点でProjects Abroadに決めました。
銀行員としての経験を活かせる活動を
私は、カンボジア・プノンペンでのマイクロファイナンスのプログラムに参加しました。
自分の銀行員としての経験が、多少なりとも活かせるのではと考えたからです。
カンボジアにおけるマイクロファイナンス取り扱い機関の数は、世界一とも言われていますが、「小口融資」という共通点はあっても、法令上グレーなのでは?とも思える短期の高利貸しから、私が参加した無利息のものまで様々です。
マイクロファイナンス活動
このプログラムは、Khemaraというカンボジアで最も古い地場NGOの1つが、Projects Abroadと一緒に実施しています。
マイクロファイナンスを通じて資金を貸出し、アドバイスをすることによって、小規模の自営業を営む人々が、ビジネスを成長させることができるように援助することを目的としています。
ローンの申し込み、契約、貸出の実行、返済金と貯金の回収という、ローンのプロセス全体を、4〜8名ほどのグループ単位で管理します。
一つのグループは、同じコミュニティに属する者で構成されるため、全員顔見知りです。
これは審査においても、コミュニティにおけるレピュテーションを把握するのに役立ちますし、ご近所同士、頑張って働いてビジネスを伸ばしてきちんと返済しよう、というインセンティブも働きます。
また、借入金を1年間に24回に分けて少しずつ返済してもらいますが、1回の返済につき、一定金額の貯金用のお金も預かり、銀行口座を保有できない借入人のために貯金をします。
さらに、借入実施にあたっては、会計の考え方、マーケティング、貯蓄などのテーマについてのトレーニングを行います。
基本的なことではありますが、多くの借入人にとっては新しい知識であり、借入の実施と同等に重要な活動と言えます。
ボランティアは、このプロセス全体に関わります。
新規ローン貸出の検討に当たって、候補者とインタビューを行い、Projects Abroadの社員と議論をして借入人の選定(審査)を行います。
トレーニングも行いますし、貸出実施後、資金の回収のための訪問も行い、ビジネスの状況を聞きながら、適宜アドバイスもします。
た、必要な書類を整え、返済管理も行うなど、ペーパーワークもあります。
多国籍な仲間との共同生活
プノンペンで住んでいた家は、中心部からトゥクトゥクで30分ほどかかる郊外でしたが、非常に清潔で広い部屋が用意されていました。
また、朝昼晩と食事は用意されており、とても美味しい料理でしたので、快適に生活できました。
世界各国からプノンペンにボランティアに来ている仲間と同じ家に住むので、キッチンで一緒に食事しながらお話ししたり、週末は旅行に行くなど、交流を深めたりすることができます。
カンボジアの人々との交流ももちろん大切ですが、他の国から様々なバックグラウンドを持って来ている他のボランティアとの交流も、非常に有意義です。
他を見て我を見返した学び
プログラムから得たものは多すぎて、全ては書ききれませんが、一つだけ心に残ったことを書きます。
4週間の滞在期間中に、7人からなるグループに貸出を実行しました。
7人のうち、3人は食用のカエルを売る商売をしていると言います。
労働環境はとても良いとは言えず、真夜中の0時から朝の6時まで、捕獲された大量のカエルを捌いて売り物の状態にする作業が続くのだそうです。
土日などの休みを取ると、お客は逃げてしまうため、毎日働くのだそうです。
3人はもっと大量にカエルを仕入れるお金を借りて、ビジネスを大きくし、生活を楽にしたい、と言います。
私たちの懸念は、労働時間の長時間化でしたが、「もっと仕入れても、時間内に十分捌いて売れる。むしろ、量の取り扱いが大きい方が、大きな顧客がつくため、小口の客に当てる時間が減らせる」とのことでした。
貸出の実行にあたり、彼女たちが実際にカエルを捌く作業をしているところを見に行きたいとProjects Abroadの社員に頼んだところ、快諾してくれました。
朝の4時半に集合し、トゥクトゥクで15分ほど揺られ、早朝の市場に到着すると、想像を超えた大量の人々が商いを行い、空気は活気に満ちていました。
活きの良い魚が、あちこちでたらいの中で跳ねていました。
野菜や果物、お肉などありとあらゆる生鮮食品の売買が行われていました。
少し探すと、3人を発見しました。
市場のメインストリートを少し避けたところに場所を陣取り、彼女たちを含めた10人弱が、大量の血まみれのカエルを囲んで、絶え間なくカエルを捌いていました。
彼女たちが私たちを見つけると、とても嬉しそうに声をかけてくれました。
私たちがカメラを向けると、とても誇らしげにカエルを片手にポーズをとってくれました。
彼女たちは、カエルビジネスのいろいろなことをたくさん話してくれました。
とにかく嬉しそうで、誇らしげでした。
正直に言って、カエルを捌く現場は、想像以上にひどいものでした。
活気がある市場の中とは言え、早朝で冷えるし、暗いし、大量の血まみれの死んだカエルに囲まれて、ひたすらカエルの山からカエルを取り出し、小さなナイフで手作業で一つ一つ捌き、それを真夜中の0時から6時間、毎日行う。
自分も血まみれになる。
でも彼女たちは、その仕事を毎日必死に行うことで、自分の家族の暮らしが成り立っていることを知っている。
そしてもうすぐ無利子で(彼らにとっては)大きなお金が借りられる。
そのお金を借りて、ビジネスを大きくし、家族の暮らしを良くできるのも、今こうしてこの仕事を頑張っているからだと理解している。
だから、こんな現場でも、あれだけの素敵な笑顔をカメラに向けることができる。
東京での生活を振り返り、彼女たちよりずっと「まとも」な仕事をしながら、彼女たちほどの明るい笑顔を持って毎日を生きている人が、どれだけいるだろうかと疑問に思いました。
大きな組織に属して、つまらないことに愚痴をこぼしている元同僚や友人たちに、ぜひ彼女たちの、血まみれのカエルに囲まれた彼女たちの誇らしげな笑顔を見せてあげたいと、そう思いました。
「働くことって、こういうことだよな」って、そう思いました。
これが今回のプログラムの、私にとっての最大の学びであると考えています。
この体験談は、主観に基づいて綴られています。
その時の現地の需要や活動の進捗状況、参加時期、参加期間、天候などによって得られる経験が異なりますので、あらかじめご了承ください。
ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。