命は平等ではない
「日本は世界有数の長寿国だ」と自慢げに主張する声をよく耳にします。
確かにそれは事実で、それだけ高い医療水準と清潔で健全な都市環境を保持していることは誇ってよいでしょう。
でも、おかしいとは思いませんか?
生まれた国によって、場所によって、生きられる時間が違うなんて。
まだ医学生にすぎない私の限られた臨床経験のなかでも、寿命や健康状態には経済的な理由などによる格差があると実感しています。
この健康格差を少しでも縮めることが、私がキャリアのなかで目指す目標です。
4月に臨床医としての一歩目を踏み出す前に、格差の目立つ途上国を見てみたい。
それが、カンボジアでのボランティアに参加することを決めた理由でした。
プロジェクトアブロードを選んだ2つの理由
ボランティアを斡旋している企業はたくさんありますが、プロジェクトアブロードを選んだ理由は大きく2つです。
1つは日程の融通が利きやすいこと。
特に公衆衛生インターンシップに関しては、いつでも好きな時期に、好きな期間参加することができます。
このおかげで、国家試験から初期研修開始までの期間にうまく渡航をはめ込むことができました。
何より決定打となったのは、現地での生活と安全の担保でした。
途上国に行くのは初めてだったので、食事と安全な住居が保障され、現地スタッフと24時間連絡がつく仕組みは理想的でした。
市井の暮らしを体感
今回のカンボジア渡航を通して得られた最大の収穫は、貧困層から富裕層まで、カンボジアの人々の様々な暮らし向きとそれに伴って生じる健康問題について知ることができたことです。
公衆衛生インターンのプログラムでは、プノンペン市内~近郊の貧しい集落に出向き、現地の医師等の通訳のもと、無料の健診(体温・血圧・血糖などの測定と問診)と簡単な治療薬の処方を行います。
また、小学生向けの衛生教育や障害者施設でのボランティアにも定期的に参加します。
タイミング次第では、やや遠方の集落を泊りがけで訪問することもあります。
私が参加したときには、医療系の学生のボランティアが多かったので、活動を監督している医師の好意で現地の公立病院を視察する機会も得られました。
さらに、居合わせた日本人ボランティアのつてや誘いで、日系のやや富裕層むけの私立病院を見学したり、スラム街を訪れたりもしました。
結果、スラム街から富裕層まで、また子どもから老人まで、いろいろな背景をもつ人々の生活の様相を知ることができました。
また、貧しいエリアを訪れた際には、高齢者の健診で血糖値>600 mg/dL (通常100前後) もまれではなかったり、子どもの健診で酷い虫歯がしばしばみられたり、アタマジラミがいたりと、生活のしかたに応じてどのような健康問題が生じているのかを知ることができました。
いくつかの病院を見学したことで、経済力によって受けられる医療の質もスピードもまるで違うことも分かりました。
家のつくりや道路環境などはGoogle Earthでもわかりますが、貧富老若様々な人々の服装や持ち物、話し方、匂いまでを身をもって経験し、彼らの健康問題や格差について学べたことは、大変貴重な成果です。
気温35度で飲むサトウキビジュース
私が渡航した2~3月はカンボジアでも特に気温の高い時期だそうで、最高気温は毎日35℃、連日快晴で1日たりとも雨天はありませんでした。
健診のために屋外の日陰に座っているだけで、汗がだらりと肌をつたいます。
そんな気温で飲む冷たいサトウキビジュースがおいしいこと。
サトウキビジュースは街中の屋台で生絞りのものが売られていて、臭みのある砂糖水のような味が私はあまり好きではないのですが、日中汗だくのときだけは本当においしかったです。
カンボジアの食文化では甘味が非常に好まれ、糖尿病が多い原因のひとつともいわれています。
練乳をたっぷりいれたコーヒーが人気だったり、朝ごはんにドーナツやチョコレートが並んだりと、その片鱗は何度も目にしました。
決して健康な食習慣ではありません。
けれど、あの酷暑のもとで頑張って働いているとき、激甘のアイスコーヒーをがぶ飲みしたくなる気持ちはよくわかります。
それを医師が頑なに「甘いものを飲まないで!」と指導するのは無理な要求というもので、おそらく効果的ではないでしょう。
不健康な食文化にも、それに足る理由があった。
であれば、その背景を加味して、無理矢理に甘いものをやめさせる以外のアプローチを考えないといけない、ということだと思います。
机上の学習だけではわからない文化の背景を体感でき、見識が大きく広がった気持ちです。
ボランティアハウスでは、プロジェクトアブロードの調理スタッフがカンボジア料理を用意してくれます。
くせのあるものは少なく、日本食に慣れた舌にはおいしく思えるはずです。
建物そのものも現地基準ではおそらくかなり清潔な部類で、よほど潔癖でなければ十分生活していけると思います。
衣類の家庭用洗濯機は普及しておらず、週に数回、まとめて洗濯業者に出すことになるので、最初のうちは服のやりくりに少し苦労しました。
この経験から得たこと
健康の格差についてもっと知りたいと思い、カンボジアでの公衆衛生ボランティアに参加しました。
課内外の活動を通して貧富老若様々な人々の暮らしぶりと健康状態を知り、健康に社会的要因が及ぼす影響をより迫真に感じることができました。
地域の環境と食文化、医師のすべき生活指導について考えるよいきっかけともなりました。
今回の公衆衛生インターンに参加したことで、健康格差という問題に対する解像度を向上させることができました。
向こう数年は日本で臨床経験をしっかり積み、また大学院などで公衆衛生学について学びを深めていきます。
いずれは公衆衛生の研究者として、誰もがその出自によらず望む限りの健康な生を送ることのできる世界を実現するために努めていきたいと思っています。
この体験談は、主観に基づいて綴られています。
その時の現地の需要や活動の進捗状況、参加時期、参加期間、天候などによって得られる経験が異なりますので、あらかじめご了承ください。
ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。