勉強だけでは足りない
私が獣医療に興味を持ったのは、9年前、小学生2年生の時だ。
もともとたくさんの動物を飼ってきて動物が好きだった私は、夏休みの読書感想文として動物虐待の本を読んだ。
それは私にとって、あまりにも衝撃的なものだった。
それから苦しんでいる動物を救いたいという思いが強くなり、将来は動物関係の仕事につくという夢を持つようになった。
しかし、自分が飼っていたウサギが余命3日で肺がんにかかり、亡くなってしまった。
一番身近な命を救うことのできなかったことで、自分の無力さを思い知り、ただ勉強するだけでなく、実際に医療経験を積まなければいけないと思うようになった。
獣医療のボランティアはないものかとインターネットで検索していたときに、Projects Abroadに獣医療プログラムがあることを知った。
留学資金がなく半ば留学を諦めかけていたが、官民共同プロジェクトである「トビタテ!留学JAPAN」に合格したこともあり、Projects Abroadで獣医療インターンをすることを決めた。
実際の獣医療の現場で
私の仕事場は、ガーナの首都アクラの動物病院。
平日の朝8時半から夕方4時過ぎまで、約8時間働いた。
休憩時間は十分取れた。
木曜日は特に人が少ないらしく、暇な時間もあったが、毎日たくさんの患者が訪れて様々なケースを見ることができた。
主な仕事は、体温の計測、点滴を打っているときに動物を見ておくなど。
英語に慣れてくると、飼い主に問診をしてみたり、アドバイスをあげたりもした。
しかし当初は、専門用語が飛び交っているドクターの会話を理解するのが大変だった。
さらに英語が全然話せない上に、人見知りな性格から、飼い主ともドクター達ともコミュニケーションが取れず、孤独感を感じたこともあった。
しかし、高校生は珍しいというのと、ほかのインターン中の学生が少ないということもあって、その分たくさん面倒を見てもらえたし、仕事もたくさん任せてもらえたので、リスニングと医療スキルは確かに上達させることが出来た。
ガーナではトゥイ語が話されているが、Projects Abroadによるトゥイ語レッスンのおかげで、少しだけ理解できるようになった。
英語とはまた違った言語も体験出来て、いい経験ができた。
生死を最も身近に感じた1ヶ月半
1ヶ月半動物病院で過ごし、様々な病気の動物を見た。
点滴をうっている途中で亡くなるイヌを目の前で見たり、お腹の中ですでに死んでしまっているヤギの赤ちゃんを無理やり引っ張って取り出す現場を見たり。
"If the time has come..."
このフレーズを何回聞いたことだろうか。
「死」がこんなにも間近に存在しているのだと思い知らされた。
しかし一方で、生まれたばかりのイヌの予防接種や、様々な動物の出産の立ち会いをする度に「生」という存在も大きく感じた。
亡くなる命もあれば、生まれる命もある。
命の尊さを感じることができた。
食事をとることも歩くことも出来なかった動物を、元気な状態で飼い主に渡すことが出来る。
それが、獣医療ボランティアをやっていて一番嬉しくなることだ。
笑顔を見れるだけで、辛いことも忘れてしまう。
1ヶ月で約300匹もの動物を治療でき、本当に充実感に溢れている。
ガーナの衛生問題
一方で、病院の外はいつも燃えていた。
ガーナでは、ゴミを1箇所に集めて燃やすのが普通なのだろうか。
ゴミの中から食べ物を探し出そうとしている動物もいて、ヤギの移動経路にもなっているので、中には誤飲してしまうものもいる。
動物病院だからこそ、ゴミの中に注射針やガラスも多いし薬品も含まれているため、動物達にとって大変危険である。
一般家庭のゴミも、そこらじゅうに捨てられている。
特に排水溝はゴミで溢れかえっていて、ニワトリや野良猫がその中を歩くので、身体中汚れてしまう。
ガーナには、根強い衛生環境問題が存在している。
貧困という理由から
ガーナでは、裕福ではない家も少なくない。
動物の治療では多くのお金が必要だ。
だからドクター達も、飼い主にお金を残しておくために、治療を断念することを勧めることがある。
救えたはずの命を見捨てなければいけなかったとき、本当に涙が出そうだった。
お金があれば一匹でも多くの動物を救うことができたのだろうか。
もし治療がもっと手軽に受けられるようになれば。
ガーナには、まだまだ改善しなければいけない問題がたくさんある。
この経験を未来へ
私には将来動物看護師になるという夢がある。
今は、獣医学や動物看護学を専攻していないただの高校生だ。
だから様々な規制があって、注射を打つなど実際に体験できなかったこともたくさんある。
しかし、規制があったからこそ、雑用はもちろん獣医師を補佐する経験をたくさんすることができた。
今回の留学では、動物看護師としてたくさん働けたのではないかと思う。
獣医師と動物看護師、どちらの役職も経験できて、とても有意義な1ヶ月半を過ごすことができた。
Projects Abroadでの留学はとても素晴らしく、充実したものだった。
大学生になったら、もう一度獣医療ボランティアをしたい。
発展途上国に必要なこと、自分ができることを見つけ活動したい。
これから私は一生懸命勉強し、自分の手で動物達が元気に生きていけるように手助け出来たらと思う。
この体験談は、主観に基づいて綴られています。
その時の現地の需要や活動の進捗状況、参加時期、参加期間、天候などによって得られる経験が異なりますので、あらかじめご了承ください。
ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。